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チヌの生態まとめ(釣り人向け)

記事の内容

 チヌ(クロダイ )の生態についてまとめました。釣り人がチヌを釣るために必要な知識の概要としてご利用下さい。特に、生息場所やエサについては釣り実績が確認される情報をなるべく網羅しています。しっかり推理して釣りプランを練るための材料になります。




「チヌをもっと釣りたい!そのためにはもっとチヌについて知らなきゃ!

 最も釣り人が多いと言われるチヌ(クロダイ)。

 鯛科の魚特有の美しい形態だけでなく、好奇心が強いことから実にバリエーション豊富な釣り方が開発されています。

 今もなお新たな釣り方が開発されているチヌですが、より楽しく釣るために生態を研究し、探求して知識を増やしていきましょう!


チヌ(クロダイ:Acanthopagrus schlegelii )の分類と名称

デジタルアート(チヌ)

チヌの分類と地方名

 分類名:クロダイ(黒鯛)
 学名:Acanthopagrus schlegelii

チヌの分類

 本州から九州にかけてはクロダイとキチヌの2種のみが生息していますが、ナンヨウチヌとミナミクロダイ 、イワツキクロダイ の3種は琉球列島に分布しています。

 名称については地方名が多く、釣り人を中心にチヌの愛称で呼ばれるほか、

  • クロ(東北地方)
  • ケイズ(関東地方)
  • カワダイ(北陸地方)
  • チンダイ(山陰地方)
  • チン(九州地方)

 このほか、「クロチヌ」、「ケンダイ」、「シロダイ」、「ズイ」、「タケチヌ」、「チンダイ」、「ツエ」、「ナベワリダイ」、「マキ」、「マナジ」など多様な名称で呼ばれています。


 また、英名はblack seabream(ブラック シーブリーム)です。

 近年の新たなチヌの呼び名であるブリームはここから名付けられたものとみられます。
 seabreamがタイ科の海水魚を総称する意味を持ちます。


 これだけ多くの別名があることから、古くから日本各地で親しまれてきた魚だということがわかります。


“チヌ”の由来

 大阪湾を茅渟(チヌ)の海と呼んでいたことが古事記に書かれており、釣り人が呼ぶチヌの名称はこれが由来と言われています。

 ちなみに、出世魚でもあるのですが関西ではババタレ→チヌ→オオスケ、関東ではチンチン→カイズ→クロダイとなります。

 また、釣り人の間では50cmを超える大物を「年無し」(何年生きているかわかならいことから“ねんなし”)とも呼びます。さらに60cmを超えると「ロクマル」とも呼ぶようです。


どんなところにいるの?(生息域について)

チヌの分布域 

 生息域は北海道の南部から日本全域であるが、奄美大島以南には生息していない。特に漁獲量が多いのが、九州北岸・西岸、瀬戸内海、伊勢湾、能登半島付近と言われる。

 海外では朝鮮半島南部から中国沿岸、台湾といった東アジア沿岸となっています。

 つまり、東洋の固有種です。


チヌの居場所

チヌの居場所

 鯛の仲間としては珍しく、水深50メートル以浅を生息域としています。時合によってはエサを求めて水深30センチもないような場所でも十分釣ることができます。

また、河川の汽水域のみならず完全な淡水域まで遡上します。10cm程度のチヌの稚魚を淡水でしばらく飼育したことがありますが、問題なく元気に泳いでいました。

 チヌは、上記の図のように多様な地形ごとに釣れるポイントを見つけることができます。


何を食べているの?(食性について)

チヌのエサ

 チヌは雑食で多様なものを食べています。もちろん、エビやカニといった甲殻類のほか、ゴカイやアミエビ、貝類などが大好物ではありますが、全国的にはスイカやミカン、コーンといった海には無いものを餌として釣ることがあります。一説には、川を流れてくる残飯を食べているため、スイカなど意外なものも餌として認識していると言われています。また、魚が好むアミノ酸がコーンなどにも豊富に含まれていることも理由のようです。

 上記の一覧もチヌが食べるものとしてはごく一部かもしれません。

 海藻も主食となっており、特にアオサやアオノリは冬場に生育することから、この時期の「寒クロ」は身に臭みがなく美味と言われます。

 好奇心旺盛に多様な餌を食べる理由の一つに、歯並びが挙げられます。上下の顎に鋭い歯があり、その後ろに数列の臼歯が並んでいるため、噛みついてすり潰す食べ方ができるのです。

 なお、その時々で固執しているエサやベイトがある場合、それと異なる餌ではなかなか食いつかないという実験結果があります。

 「オキアミに食いついたチヌの腹の中はオキアミでいっぱいとなっており、その状況ではアオイソメの食いつきが大きく落ちる」

 好奇心旺盛ながらも、慎重な性格のためその時安心して食べているエサが一番良いようです。


生活リズムを掴もう!(生活史について)

1年間の生活リズム(季節と水温との関係)

チヌの生活史

 産卵期は春から初夏にかけてで、地域によって多少のばらつきがあります。3日前後で孵化し、1ヶ月で1cm程度まで成長します。また、水温が6度を下回るとチヌは餌を食べなくなるため、その前に越冬に向けた栄養摂取に勤しみます。マダイと逆で夏から秋が旬となります。


寿命はどのくらい?

 チヌは生きている限り成長を続けるため、長生きな個体ほど大型になっていきます。正確な寿命は判明していないようですが、ウロコの年輪を数えることで年齢を知ることが出来、おおよそ1年で15cm、2年で20cm、4年で30cm程度となり、60cmを超える個体は15年ほどとなります。(参照:クロダイの生物学とチヌの釣魚学 海野徹也著)

 海域の水温や栄養状態によって成長速度は前後するため、大物が釣れたらウロコの年輪を数えてみてはどうでしょう。


最大サイズの記録

チヌの日本記録 71.6cm、5.72kg
引用元:(JFS)日本フィッシングサーチ 〔釣魚の日本記録〕

 確認される日本記録は、何と71.6センチのお化けチヌ。重さも鉄アレイより重いですね、、。

 真偽ははっきりしませんが、とあるダイバーの話では80センチクラスのチヌ もいるとか。広い海の中には、まだまだ大物がいるのかもしれないですね!


チヌを知ることで見えてくる、一歩深い釣り方

中学生の頃は、たまたま釣れた!

 見様見真似で地元の防波堤に出向き、落とし込み釣りを一夏頑張りました。

 それこそ堤防壁面にはイガイが密生し、イワガニもよく見かけられる好ポイントだったと思います。結局チヌは20センチくらいの小型が1枚釣れただけでしたが、セイゴやアイナメ、メバルなど多様な魚が釣れてずいぶん楽しませてもらいました。その一方で、40センチ以上のチヌを何枚もストリンガーにストックしている大人もいて、当時はその違いが分かりませんでした。

 しばらくして、チヌをルアーで狙うチニングというジャンルが生まれ、あらゆるシーンでチヌをルアーで釣ることができると実証されてきました。それまでは、フカセ釣りのようにいかにエサを自然の流れになじませ、チヌに違和感を持たせないかが重要と思っていましたが、ブラックバスのようにソフトルアーのみならずハードルアーでもチヌがたくさん釣れると知らされ、いかにチヌを知らないままでいたのかと気付かされました。

 また、ルアーで釣るということは、生エサが持つ匂いというアドバンテージを失うことになります。それでもチヌが釣れる。何でだろ?何でチヌはこんな硬いものに食いつくのか?と疑問が湧いてきます。チヌは好奇心が旺盛だから雑食、、何で好奇心旺盛なの?でも慎重で臆病とも言われる、、どっちやねん!?

 一歩踏み込むとわからないことだらけです。


チヌからどう見えているかが重要

 このルアーは釣れそうだ!って思っているのは私たち人間側です。

 夜釣りの実験で、ホワイトカラーミノー(明度が最大で見えやすい)とブラックカラー(ほとんど明度がなく見えない)のミノーで釣果に差がなかったという検証もあり、見た目がどんな要因になっているのか、魚側の視点が重要になってきます。

 また、チヌは成長してサイズが大きくなるほど視覚よりも嗅覚が鋭敏になってきます。それでも、他魚種に比べて目は良い方ですし、側線で水圧や水の振動を感知し、釣り糸の存在にも実は気づいています。

 細かい検証はここでは控えますが、重要なポイントはチヌに違和感をもたれないことチヌにとってエサが魅力的に映るように演出することです。それをチヌの視点、気持ちに立って想像することが釣果につながり、釣りそのものを奥深い楽しみに変えてくれると思います。良くある「〜必釣カラー」の謳い文句で釣られるのは、チヌではなくもしかしたら釣り人の方かもしれません。

 もし、時々の自然条件を良く観察し、チヌの習性を理解することができれば、どこにいて何を食べているのか高い精度で推理することができるはずです。その推理に則った釣り戦略を立て、実証・検証するために釣りに出かけるスタイルをこのサイトで提案していきます。

 趣味だからこそ釣るという行為に楽しみを見出し、自然との調和を感じたり、観察・推理することを通じて思考能力を向上させ、人生を豊かにしていきたいですね。